■ 悪玉少なくても楽観禁物
健康診断などでコレステロールを減らすように医師から指導された人も多いだろう。コレステロールにはいわゆる「悪玉」と「善玉」とがある。診断基準の要となる悪玉の数値が「正常」でも、心筋梗塞(こうそく)などの発症リスクが高まりそうなことがわかってきた。善玉の数値が低いのが問題のようだ。コレステロールは2つの数値のバランス(割合)をよくすることが、より効果的な生活習慣病対策につながると専門家はみている。
心血管系の手術数が国内最多の病院で、突然胸を締め付けられるような発作に見舞われる急性心筋梗塞などの心臓病を発症して運び込まれた371人のコレステロール値を調べた。悪玉コレステロールの平均値は血液1dl中111mgで、日本動脈硬化学会が示す脂質異常症の診断基準(同140mg以上が問題あり)を大きく下回っていた。
半数が120mg以下で、「大半が悪玉と善玉のバランスが崩れていた」(同病院)。約3割の善玉値が同40mg未満と低い。
また数年前から悪玉と善玉とのバランスに着目し、脂質異常症の治療や予防を進める。きっかけになったのは、心筋梗塞の発作を初めて起こして手術をする人のおよそ半分の245人で、悪玉値が同120mg以下と問題なかったからだ。なかには、悪玉値が同80mgで心筋梗塞を起こした人もいたが、この人の場合、善玉値は同19mgと著しく低かった。
そもそもコレステロールとは何だろうか。生活習慣病の元凶で中高年にとって大敵と思いがちだが、実は健康な体を維持するのに欠かせない脂質だ。細胞の骨組みになったり、ホルモンの元になったりする。コレステロール自体には悪玉も善玉もない。
リポたんぱくと呼ぶ物質にのって血液内を駆け巡る。この「運び屋」の違いで、悪玉と善玉とに分類される。悪玉が肝臓で作られたコレステロールを全身に届けるのに対し、善玉は消費されずに余ったコレステロールをもう一度肝臓に戻す。血液検査では運搬されるコレステロールの量を測っている。
悪玉は血中をまわる過程で小さく酸化しやすくなり、血管壁などにコレステロールを
付着させ、動脈硬化を引き起こす。さらに、善玉が少ないと、本来肝臓に戻さなければならないコレステロールが血管壁にたまる。
悪玉値が問題なくても、油断はできない。「悪玉値を善玉値で割って算出する比率が1・5以下の人は血管内部の表面がきれいで、心配ない。逆にこの値が2・5以上になると、コレステロールがかなりついており、要注意だ」と警鐘を鳴らす。
「悪玉値が高い人はもちろん治療が必要だが、善玉値が低いのも危険因子になる」と話す。基準では低すぎる善玉値にも気をつけるように注意喚起したが、「投薬などで確実に数値を上げる方法がまだないこともあり、専門家の間でも議論があまり進まなかった」と明かす。
運動と禁煙有効
ただ、ここ数年で善玉コレステロールに関する研究は国内外で進んでおり、「数値が―卵4上がると動脈硬化リスクが2%下がる」というデー
夕もある。米科学誌には「運動と禁煙、体重減少によって、数値は改善される」との論文も発表された。
「同40mg未満になった低い数値を正常値に戻すには、ある程度の運動量が必要になる」と話す。例えば、週6回、続けて30分間のウオーキングをやると、半年で2・5mg上がるというデータもある。
禁煙も有効のようだ。たばこに含まれるニコチンは中性脂肪の合成を促す。中性脂肪は「善玉コレステロールとシーソー関係にある」ため、中性脂肪が増えると善玉の数値も下がる。
こうした研究成果も踏まえ、2012年に予定されている動脈硬化症の予防ガイドラインの改定では「悪玉値と善玉値とのバランスに、より重点を置いた基準への変更を検討していきたい」と話している。
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