■ 脳梗塞の前兆を見逃すな！
脳卒中のおよそ７割を占める脳梗塞（こうそく）は、発症する前に一時的なからだのしびれや舌のもつれなどが現れる場合が少なくない。こうした症状から短時間で回復したからと放っておくと、近い将来の大きな発作につながる可能性が高い。脳梗塞になると半身のマヒなど重い後遺症が出る場合が多いだけに、前兆を見過ごさずに治療を始めることが大切だ。
急に右手がしぴれて箸（はし）がうまく持てなくなったが、５分ほどで直ったので放っておいた。こんな覚えのある人は、すぐに病院に行って精密検査をした方がいい。血管に血が詰まって体のマヒなどを引き起こす脳梗塞の前兆だったと考えられるからだ。梗塞患者の２、３割に前兆が起きている。
前兆として注意しなければならないのは、まず手足のしびれや頗のゆがみといったマヒ症状。特に片手だけ力が入らなかったり顔の左右でゆがみが出たりといった半身マヒは、脳梗塞の疑いが強い。
めまいがしたり体のバランスがとれなくなってしまう平衡障害も見逃してはいけない。ふらふらしたり、真っすぐ歩けなかったりするときも脳梗塞を疑ってみるべきだ。急に舌がもつれたり、ろれつがまわらなくなったりする言語の軽い障害も前兆の１つ。言葉そのものが出てこなくなる失語症の症状が現れた時も注意がいる。目に障害が出ることも少なくない。ものが二重に見えるのは神経がマヒして眼球の動きがずれるため。どちらの目で見ても片側だけ視野が欠けて見えなくなる症状が現れることもある。一方で片目だけが見えないときは通常は目そのものに障害がある。ただ、顕（けい）動脈が硬化して起こる一過性黒内障は脳梗塞と関係が深いので、片目の障害でも１時間程度で回復したときにはすぐに検査した方がよい。
こうした前兆は５分や10分といった短時間で治まることも多い。しかし、症状に気づいたら、できれば救急外来に行くのがよい。短時間で回復してもその日のうちに病院へ行くべきだ。放置しておくと早ければ数日の内にも脳梗塞を引き起こす危険性がある。
いったん脳梗塞を発症してしまうと、片側の手足がマヒして全く動かなくなるような重い後遺症となることが多い。最近は血栓溶解剤を使った治療が普及して命を落とすケースは少なくなりつつあるが、後遺症が出ずにすむ患者は約２割にとどまる。前兆の段階で気づいて治療を始めれば、後遺症に悩まされる心配をせずにすむ。前兆や軽い発作が起きた人はその後の予防が大事。この点では最近の医療はすごく進歩している。予防には、血を固まりにくくする抗血小板薬の服用が一般的。痛み止めとしても有名なアスピリンが代表だ。脳梗塞を含めた多くの病気の原因になる動脈硬化が進むのを、血圧を下げる薬を使って抑えることもできるようになってきた。
軽いマヒなどを伴う前兆までいかなくても、高血圧が脳梗塞を含めた脳卒中を起こしやすくするのは周知の事実。最近は、従来考えられていた範囲よりもさらに血圧が低い方がよいことも分かってきた。正常範囲の高めにおさまっている人が血圧を10下げると脳卒中のリスクは２、３割下がる。脳卒中にかんする限り血圧は低いほどよい。上が140、下が90を超える場合は治療したほうがいい。さらに糖尿病や高脂血症から脳梗塞につながる危険も高い。
喫煙も脳梗塞リスクを高めることがはっきりしている。厚生労働省研究班の研究で、１日40本以上たばこを吸う男性が脳梗塞を起こす危険性は細かい血管が詰まるラクナ脳梗塞が、吸わない人の2.19倍、大きな血管が詰まる大血管脳梗塞も2.08倍に達する。
脳梗塞は男性は70歳代、女性は80歳代が最も患者が多く高齢者の病気という印象もあるが、40歳代後半から患者が増え始める。働き盛りを後遺症のリハビリですごすことにならないためにも、前兆を見過ごさないよう注意したい。
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